苦労の多い年代と心のバランス管理

以前は、四十歳代は自殺の少ない年代、「不惑」を地でいくような充実して安定した年代と考えられていました。しかし、最近では、働き盛りの年代に自殺する人が目立ちます。これは仮面うつ病をはじめとする、うつ病患者の増加と関係があるようで三十~四十歳代は、男女ともに人生の中でも苦労の多い年代です。男性は会社では中間管理職としての責任を追及され、世代の違う部下への指導も大変です。情報化が進む中で、OA機器の扱いをマスターすることも余儀なくされ、残業や休日出勤、お酒のつき合いで睡眠時間も減ります。
家庭では、子どもの教育費や住宅ローンで家計費は増える一方です。年老いた両親の健康も心配です。自分たちの成人病の不安も出てきます。転勤を命じられると、単身赴任を選ぶケースも多いようですが、なかには生活環境の変化で心のバランスを崩す人もいるでしょう。リストラにあうという最悪の事態が多いのもこの年代です。

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ストレスについて

頭痛が治らない、からだがだるい、めまいがする……こんなつらい症状を抱えて、病院で検査した結果、特に異常はなく、「ストレスでしょう。ゆっくり休んでください」と医師に言われたことはありませんか?
今ではストレスという言葉は、一般的に使われるようになりましたが、「つらい症状の原因はストレスでしょう」と医師に言われても、「ストレスってなあに?」とすぐには納得できない人も多いのではないでしょうか。
また、「近ごろ、イライラしているけど、ストレスがたまっているんじゃない」と家族や友だちに言われても、素直に自分の中のストレスについて理解できていないことも多いかもしれませんね。

そもそもストレスという一一一一口葉は、カナダの生理・病理学者ハンス・セリエが医学に導入したものです。セリエはストレスを「寒冷、外傷、疾病、精神的緊張などが原因になって、体内で起こる非特異的な防御反応」と定義しました。
そして、反応を引き起こす刺激のことを「ストレッサー」、刺激に対して反応して、ゆ
がみを起こした状態を「ストレス」と考えました。
本来、人間のからだは寒さや精神的緊張などの刺激に対して、一定の安定した働きを営
むようになっています。この働きをホメオスターシス(恒常性)と呼びます。刺激は、ホ
メオスターシスを一時的に乱しますが、乱された機能はまた元にもどそうとします。刺激
によって体内に起こる変化、それを元にもどそうとする反応、これらをまとめてストレス
と呼びます。
たとえば、ストレッサーが強すぎて個人の対処能力を超えたり、ストレッサーそのものが強くなくても長く維持したり、別のストレッサーと重なったりして、ホメオスターシスが破綻すると、からだは健康を維持できなくなり、心身症や神経症、うつ病などがあらわれます。
ストレスを形にして表現するには、丸いボールを指で押すときのことを考えてみましょう。丸く膨らんだボールを押すと、一部がへこんで形がいびつになります。この指で押すという刺激が「ストレッサー」で、へこんだ状態が「ストレス(状態)」です。
たとえば突然、地震が起こったとしたら、あなたはきっとからだがガクガクしたり、動惇がしたり、不安な気持ちになるでしょう。この場合は、地震がストレッサーで、それによる心身の変化の状態がストレスとなります。

うつの人はモティベーションに問題があることが特徴

うつの人はモティベーションに問題があることが特徴です。つまり動機が欠如し
ているのです。以前かかわっていたような行動にも興味を持てなくなります。人を
避けるようになり、一人にしてほしいと願うようになります。ユーモアのセンスも
失われ、なかなか決心がつかなくなります。そしてしだいに自殺のことばかりが頭を占めるようになるのです。
③うつにともなう身体的症状
うつの三番目の特徴は、体の症状で、医師らはこれを「うっの生理学的随伴症状」ととらえています。うっの状態にある間、神経系統で脳内アミン、とくにセロトニンにかかわる生化学的変化がおきます。人間の脳は、車がガソリンで走るのと同じく、セロトニンで機能しますが、こうした脳内物質の変化が、さまざまな身体的結果をもたらすのです。

まず、体の動きが減り、睡眠が影響を受けます。入眠障害や早朝覚醒があり、するとまた寝つけなくなることがよく見られます。最初のうちは、睡眠が短くなるより、眠りすぎることが多いでしょう。食欲も変化し、過食かまったく食べなくなり、それによる体重の減少、または増加が見られます。下痢をおこすこともありますが、普通は便秘がより多く見られます。
女性では、生理が何カ月も止まったり、不順になったりします。セックスへの興味が薄れるケースもよく見られます。緊張からくる頭痛、頭部の張りつめた感じを新競ることもあります。体の動きが緩慢になるにつれて、姿勢が前かがみになり、荘然自失の状態になります。胃腸障害もよく見られ、代謝率も下がります。口が渇いたり、心拍数が増えて、動惇が激しくなったりもします。

こうした身体的変化に本人が驚いて、、心気症(体の病気に対する過剰な懸念)になり、多くがガンや低血糖、栄養障害だと思いこんだりします。実際、人は面子を守るためには、何らかの病気を持っているほうがましなのです。、心理的葛藤があると認めることは弱さであり、それは避けたいのです。低血糖だと信じて私たちのクリニックを訪れる百数人の患者のうち、実際に低血糖の疑いがあると確認されたのはほんの一人だけでした。

うつになるとどんな症状が現れるのか?

うつは存在のすべてl身体、感情スピリチュァリティーに影響をおよぼす病気です。うつの感情的な痛みは、骨折による身体的な痛みよりもはるかに深刻です。骨折などとは違って、うつの痛みは徐々にゆっくりとやってきて、ずっと長くとどまることが多いのです。
現在多くの男女が、身体的な病気よりもうつの症状を多く患っています。そのうつの症状は、臨床的に見て大きく五つに分かれます。それは、悲しい感情、つらい思考、身体的諸症状、不安、そして妄想的思考です。
悲しい感情につきまとわれる
うつの一大症状のひとつは、悲しい感情です。うつを患っている人はふさぎこんだ顔つきで、落ちこんで見えます。また、泣きたい気分になりがちで、実際によく泣きます。視線は下を向いて悲しそうです。口角は下がり、額はしわが寄っています。疲れて、がっかりしたように見え、顔つきは緊迫した感じがあります。
うつが進行すると、しだいに身だしなみに興味を示さなくなります。男性はひげを剃らなくなり、女性は化粧をしなくなります。深刻なうつの人は他人からはだらしなく見えます。
うつを笑顔でかくそうとしてもわかってしまいます。事実、うつの人の多くが「にこにこうつ」として知られる状況(内面の悲しい感情をかくすために不適当に笑顔を見せる)になることがあります。
つらい思考に襲われる
うつの第二の症状は、痛みをともなうつらい思考です。骨折すると身体的な痛みを感じるのと同じく、うつの人は感情的な痛みを経験します。ひどい身体的な痛みと感情的な痛みの両方を経験した人の多くが、心の痛みのほうが体の痛みよりもはるかに苦しいと訴えています。心の痛みより、骨折の痛みのほうがましだというのです。
うつの人は何度もくりかえして内省的に過去のあやまちに関して自分を責めます。自分に非がない場合でも、うしろめたさを感じ、自分のせいだと感じてしまうのです。過去のうまくいかなかったことも、それが事実であれ、想像上のことであれ、あらゆる事柄を過剰に心配します。自己否定感にとらわれているのです。問題がささいなことでしかなくても、あたかも大問題であるかのように評価し、それが全部自分の責任だとして自分を責めます(ある人はまったく逆に、自己憐偶にふけるあまり、すべての問題を他人のせいにします)。
また、自分が大切だとは考えず、知性、スピリチュアリティなどの点で、自分は劣っていると感じています。自分は無力で、無価値、希望がないと考えています(事実、うつの人の七五%は自分はけっして治らないと感じています)。
多くの場合、まわりの人たちからはサポートがなく、空虚で孤独だと感じています。しかし、人からの愛情、確認の言葉がほしいのに、深く根づいた敵意がそれを得ることを挫折させます。最近、あるいはずっと過去の自分の思うようにいかなかったことに対する後悔でいっぱいです。不幸で悲観的、怒りっぽく、疑い深くなっています。あらゆる体験が心の痛みと結びついています。

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原因疾患によって異なる経過

経過は認知症の原因疾患によって異なる。
秘その代表的な疾患であるアルツハイマー病と脳血管性認知症についていえば、前者は徐々に進睡行するが、後者は階段状に進む、といわれる。
確かに、それが典型例で、アルツハイマー病は徐々に脳の神経細胞が減少していくので徐々に進行する。ところが、脳血管性認知症では、あらたな小梗塞が生じると、その時点で急激に第 認知症が深まり、以後はプラトー、つまり進行のみられない、安定した時期がつづくのである。

 

また、急激な認知症の進行がみられるクロィッフェルト・ヤコプ病などという特殊な疾患もあれば、多くは徐々にしか進行しない、七○歳代後半以降に発症したアルッハィマー型認知症のようなものもある。
しかし、認知症の典型は、やはり変性疾患による一次性認知症であろう。そこで、その代表であるアルッハィマー型認知症の経過について、順次、以下に述べる。前著でも大まかな概要を示したが、認知症のはじまりに焦点を当てて、やや詳細に述べよう。病は、そのはじまりにおいて、その病態の特徴が鮮明に現れることが多いからである。

記憶障害

認知症の中核症状のなかでも記憶障害はやはり中心に据えられるべき障害である。ただ、記憶は単一の機能ではなく、最近ではさまざまな区分が提唱されてきている。そのことにまずふれよう。しかし、認知症には必ず記憶障害がふられるが、記憶障害があれば認知症であるとは言えない。そのあたりを、その後で、少していねいに述べる。

かつて記憶は、できごと、知識などを心に取り込む「記銘」と、それを心の中に留めおく「保持」、その情報をふたたび取り出す「再生」とに区分されると考えられていた。これに、取り出された情報が以前記憶されたものと同じであると確認する「再認」が加えられることもある。
今では、このような考えは単純に過ぎるとされることがあるが、臨床的には、この区分によって説明できることも多い。
こんなことがあった。
長崎で講演する機会があったが、空港に主催者であるデイケアのスタッフが二人で出迎えてくれていた。初対面だったが、ホテルで簡単な打ち合わせを終えると、待っていたように二人が「こんなことってあるんでしょうか」と話し出した。デイケアの利用者に気むずかしい、かなり認知症の進んだ男性がおられたのだそうだ。ほと
んど何もしゃべっていただけない方で、言葉数も少なくなっているのだろうとスタッフは考えていた。
その方が、デイケアを開始して間もなく、さまざまな理由から老人ホームに入所することになった。しかし、最初は何の反応もなかった。自分が家を離れて入所するということも分かっていないのだろう、とスタッフは感じていたという。
ところが、いよいよ入所が近づいた頃になって、その方がスタッフの一人ひとりをつかまえて、「あんたといっしょに買物に行ったな」「あんたに故郷の話をしてもらったなあ」「みんなとチャンポンをつくったなあ。あれ、おいしかったよ」というような話をされたのだそうだ。
二人は話しながら涙がとまらないようだった。私ももらい泣きして答えた。
「そうだね、認知症を病む人って、心に深く刻み込まれた情動を伴う経験は忘れていないんだよね。それを言葉にされなくてもね。みなさんのケアが彼の心に届いていたのですよ」
この方の場合などは、デイケアでの経験は、記銘はされており、保持されてもいたのだが、
再生の段階でつまずいていたと考えられる。それがあるきっかけで再生されたということだろう。
認知症を病む人たちには、このように記銘、保持はされているのだが、再生されないままに埋もれている記憶がまだたくさんあるに違いない。

いろいろなタイプ

激しい周辺症状を示す人とそうではない人とがいる。周辺症状は、①認知症の種類、進行の加速度、合併症の有無などの、病の側の要因、②病をかかえた当人の人柄や生活史などの個人的要因、③彼らが今、どのような状況あるいは人と人とのつながりを生きているかという状況的要因などの複雑な絡みから生成する。
ここでは②の人柄の違いについて述べておこう。激しい周辺症状を示す人には「激しい人」が多い。勝ち気で負けず嫌い、エネルギーがあって、年より若いと言われ続けてきたがんばり屋で、波潤万丈の人生を自分の力で乗り切ってきた人たちである。彼らは、私の造語だが、
「面倒見はいいが、面倒見られがヘタ」な人たちであり、自分が面倒をみられる側に回ったことをうまく受け容れられないのである。
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中核症状と周辺症状

認知症の症状はきわめて多彩である。そこで、中核症状と周辺症状とに分けるのが認知症学の習わしである。これらは成り立ちが違い、治療やケアでも異なる対応が求められる。

 

認知症をかかえる人にはだれにでも現れる症状であり、記憶障害、見当識障害、思考障害、言葉や数のような抽象的能力の障害などをあげることができる。これらは脳の障害から直接的に生み出され、たとえば、記憶障害は主に海馬などの記憶を司る部位の損傷から生じるというような医学的説明によるしかない。忘れたいことが積み重なって記憶障害に至る、とは言えなただ、中核症状の一部には、脳障害から直接ひきおこされたとはいえない廃用症候群が含まれていることを知っておかねばならない。

 

廃用症候群とは、医学的にみる限り、それ程機能が低下しているとは考えられないのに、使用しないための機能低下が加わり、ときにはもとに戻せない変化が生じている場合をいう。たとえば、脳卒中によって片麻蝉が生じ、リハビリもせずに、寝てばかりいると、筋力が衰え、関節も拘縮して寝たきりになる。

 

このような廃用症候群が中核症状の一部を占めている。認知症をかかえ、一人暮らしで人との交わりや刺激に乏しい生活を送っていると、認知症が深まってしまう。そのような人がデイケアなどを利用し始めると、みるみる認知障害が改善され、この人の認知症はこんなに浅かったのかと、自らの不明を恥じることもある。

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その他の認知症

脳の血管が詰まったり(梗塞)、破れたり(出血)した結果、その血管で酸素や栄養を供給されている脳の部位が損傷を受け、認知症に至る疾患である。だから、もともとは血管の病と考えられ、医学的治療や予防を論じるときには、アルツハイマー病などとはまったく異なる疾患として考えねばならない。 認知症に至る脳血管障害には、多発性梗塞といわれる、脳の小さな血管に梗塞が繰り返し生じるタイプが多い。

 

この場合は、発症時期が明確ではなく、徐々に始まる。 大きな血管の梗塞が生じて、その後遺症の一つとして認知症がみられる場合もある。この場合は、意識障害や麻蝉などの症状をもって急激に発症することが多いが、認知症と診断するには、意識障害がなくなり、その後の回復を数か月待つ必要がある。「持続的」で「意識障害がないこと」というのが認知症の定義だった。 アルツハイマー病と脳血管性認知症で認知症の七、八割を占めるが、その他にも治療上、注意して鑑別する必要がある疾患がある。

 

 

一つは治療可能な認知症で、医学的治療によって治癒あるいは改善する認知症である。 正常圧水頭症は、くも膜下出血などの結果、脳脊髄液の循環が妨げられ、滞留して脳を圧迫し、認知症、歩行障害、失禁を生じる。手術によって改善するといわれるが、歩行障害、失禁は改善しても、よほど早期に発見されないと認知症の改善はごく一部に終わることが多い。 薬物(アルコールを含む)による認知症もある。そのことに気づいて服薬、飲用を止めないと認知症の回復は望めない。逆にいえば、止めることができると、かなりの回復が期待できる。

 

他にも、インフルエンザウイルス、へルペスウイルスなどの感染症による認知症、脳腫傷、内分泌疾患などの、身体疾患による場合などがあり、これらは原因になっている疾患が改善するかどうかが認知症の経過に大きな影響を与える。

変性疾患(アルツハイマー病など)

変性疾患とは、原因はまだよく分かっていないが、脳の神経細胞が死滅、脱落して、その結果、脳が萎縮し、認知症を招く疾患群である。変性疾患による認知症は一次性認知症とよばれる。それに対して、次項以下で述べる変性疾患以外の認知症は、脳以外の疾患や物質乱用の結果生じるものだから、二次性認知症とよばれる。
変性疾患による認知症の代表がアルツハイマー病である。アルツハイマー病には六五歳以前に発症する早発性のものと、以後に発症する遅発性のものとがあり、前者をアルツハイマー病、後者をアルッハイマー型認知症とよぶことがある。しかし、両者の脳には、神経原線維変化や老人斑などがみられる特有の顕微鏡所見に、基本的な違いはないとされる。

 
アルツハイマー病という名称は、ドイツの精神科医アルッハィマーが、一九○六年、五一歳のとき嫉妬妄想で発症し、記憶障害、見当識障害などの症状が進行性に深まり、四年半後に死亡した女性の事例を学会で報告したことから命名されたものである。その後、彼は同様の症例を集め、特有の脳病理所見を示した論文も発表した。
他にも、アルツハイマー病より早く発症することが多く、性格変化や反社会的行動、同じ言葉や行動を繰り返すなどの特有の症状を示すビック病、手のふるえ、関節を曲げるのに鉛管を曲げるような抵抗がみられる筋強剛、表情の乏しさ、前屈み姿勢、小刻み・突進歩行などの症状を示すパーキンソン病、パーキンソン症状に加えて抑うつや幻覚症状がみられるレビー小体病などがある。

 
最近学会などで盛んに論議されている認知症に前頭側頭型認知症があるが、これは前頭葉、側頭葉に萎縮が目立ち、性格変化や社会的行動の異常がみられる。ビック病はその代表的な疾患である。